ただ悲しいときのマヨゲン其の4
「悲しみを文字にしてみる。」
「俺は生きている意味があると思うか?」
おや。LGBTQ友人代表快速ミヤゾーくん。どうした。いつものミヤゾーらしくないじゃないか。
「俺には生きている意味があるのか。と、時々考えるんだよ。俺みたいな人間でも。」
いや、キミの繊細さをボクは知っているぞ。
その繊細なところを好きになる人も多いのだろう。そして無条件に優しく振る舞えるところもな。
「なんでいま、俺に優しいことを言い出すんだ。オマエは。」
よくは分からないが、キミの顔に書いてある気がするな。どうせ俺はダメな人間だと、オマエも思っているんだろう、とでも言いたげな顔だ。自分の価値を自分で低いほうに決めているような顔だ。
「そんなことはない。と思うが、そうかもしれんね。オマエが言うなら。」
自分の価値は自分で決めればいいとボクも考えているが、わざわざ自分で自分を低く見下ろすのには賛成できないな。キミらしくもない。
「そんなことはない。本当の俺はそんなところだ。グチも言えば悩みもする。他人を励ましてはいるが、それで自分から目を逸らしているのかもしれん。自分以外の苦しんでいる人間を励ましていれば、自分が優位に立っているような気がするんだろう。」
違う。
「ん?」
違う。断じて違う。キミはそんなヤツじゃない。グチも言うし悩むのかもしれないが、悩みなんか誰にでもあるし、それこそボクには腐っていても売りに出して誰も買わないほど下らない悩みがあるが、キミが誰かを励ますときは本当に真剣にその人間のことを心配しているし、元気になってもらいたいと考えている。それはボクも知っているし、きっと周囲の誰もが知っている。ミヤゾーは、良いヤツだ。
「ありがとう。」
うわ、怖い! ミヤゾーが素直になっている! 怖いよ、やめてくれ。あ、動画を録っていいか。いまのもう1回頼むよ。
「ばーかーやーろーうー。」
わはは。顔見知りは非常に多いが友人はとても少ないボクのLGBTQ友人代表・快速のミヤゾーくん。珍しくボクからキミに提案がある。
「なんだ、バカヤロウ!」
元気があれば、何でもできる!
「そのままか。」
違う! ノッてはみたが、本当は違う。
「……オマエから教わるのは面倒だな。いちいちノッてくるんじゃないよ。」
ああ、本当はな、
「本当は?」
悲しみを文字にしてみる。ということだよ。
「悲しみを文字にしてみる。」
昔の人は日記を書いていたというけれど、あれは意味のあることだと思う。自分を振り返るって、本当に大事なことだと思う。
「……つまり?」
自分のなかの悲しみを、ひとつひとつ文字にしてみる。誰に見せなくてもいい。むしろ秘密にしているほうがいいかもしれないな。だけど、文字にすることで自分の心が整理できる。もしかしたら悲しみの理由を解決できるかもしれない。解決策が思いつけるかもしれない。かもしれない、が多いけれど。
「まあ、そうかもしれない。」
ボクは文字を書く仕事をしているけれど、仕事に助けられていると思うことも時々あるんだよ。吐き出す、という意味では。
「うーん、そうかもしれない。」
おい、真剣に聞けよ。
「聞いているかもしれない。」
喰らえ! 全集中! 水の呼吸・壱の型・水面切り!
「おっと危ない。バク宙が得意じゃなかったら、危なかったぜ。」
意外に余裕があるね。平気そうだな。
「いや、やってみるよ。悲しみを文字に。何割かは今の会話で消化された気もするが、自分しか読めない日記は自分に効くかもしれない。」
日記を書き始めたら読ませてくれるか。
「ばかやろう。交換日記か。」
いや、古いわ。一旦やめさせてもらいます。
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