人間不信のときのマヨゲン其の2

「信じてもらえない理由は、探さなくていい」

伝えたいことはたくさんあるのに、伝えたい理由もたくさんあるのに、ボクのためじゃなくあなたのことやあなたたちのことを考えているのに、何を言っても伝わっていない気がする。伝わる以前の問題だなと感じる。自分の言葉に、あるいは存在に、重みがない、意味がない、焚火の煙が空に紛れていくように、ボクの声は空間に紛れていく。まるで何事もなかったかのように。

「詩人だな。」

……。

無反応か。それも詩人だな。」

バカ野郎。傷ついているんだよ。傷ついている人間を茶化すなよ。キミは本当にデリカシーのないヤツだ。くそったれ。

「英語だと放送禁止用語だな。ネットにも載せられんぞ。英語ならな。」

このくそったれ。肉体絞り魔改造バスケ野郎。

「おい、そんな二つ名を俺に命名していたのか。なかなかやるな。」

うっせえわ。当たってんだろ。ボクと同じ身長のくせに体重は20㎏も軽いバスケ野郎だ。

「違うなあ。オマエが俺より20㎏重いんだ。そもそも俺は太っていると言われたことがないんだよ、人生で。自分では太っていると思う時期もあったがな。」

やかましいんだよ。どうせボクは自分で太っているなと思い続けるばかりの人生だよ。いつもいつも痩せなきゃと思い続けている人生だよ。悪いか!

「おいおい、今日はまた絶望的に自棄になってんな。大丈夫か。」

キミこそこの間の人間不信はどこに行ったんだ。なんでボクの言うことは信じてもらえないんだ。なんでボクの思いは空気のように軽いんだ。

「信じてもらえない理由は、探さなくていい。」

なんだって。バカにしてんのか、このくそったれ。

「おいおい、落ち着けよ、バカタレ。キャラがおかしくなってんぞ。オマエ、何となくキレっぽくなってんな。」

ふーふー、ふーふー。

「そうそう。ひーひー、ふーふー、ひーひー、ふーふーだ。」

ひーひー、ふーふー、って、ラマーズ法じゃないか!

「お、いいツッコミだな。少しはアタマが回ってきたか。いいか、よく聞けよ。」

ふーふー、ひーひーふー。……うん、わかった。よく聞く。

「オマエの状況は分からん。だが、信じてもらえない理由は、探さなくていい。」

言葉はよく伝わる。意味も分かった。でも、納得はできない。

「そうだろうな。オマエはいつもマジメだからな。」

マジメが悪いように聞こえるぞ。しかも、ボクはマジメじゃない。どちらかと言わなくてもマジメなじゃないほうに分けられるぞ。

「違う。オマエはただ物差しが人と違うだけで、スーパーマジメだ。だが、そんな話はまた来週のお楽しみだ。今日の主題は、たとえ信じてもらえなくても、その理由は探さなくていい。ということだ。」

うん、納得はできない。

「理由を探さない、に、納得ができないんだな。そうだな?」

そうだ。ボクは自分の考えを伝えたい。伝えたことを信じてほしい。その人のことを一所懸命考えているんだ。どうしてだ!

「落ち着け。熱くなるな。静まれ。声は低く。体温を下げろ。息を整えろ。そして、考えろ。」

……何を。

「俺を信じるか信じないかは、オマエの自由だ。」

そりゃそうだ。

「オマエを信じるかどうかは、俺の自由であり、相手の自由だ。」

……それもそうだ。

「世の中の80%くらいの人間には……」

80%というと、地球の人口77億人のうちの61億人くらいには……?

「そう、61億くらいの人間には、言葉ってのは“どんな内容か”じゃなくて“誰が言ったか”なんだよ。伝わるか?」

……伝わる。有名人が話すほうが聞いてくれるんだ。ボクの言葉は、ボクが有名じゃないから……。

「違う。言いたいのはそこじゃない。大事なのは、世界の人口の5人に1人くらいは“誰が言ったか”じゃなく“どんな内容か”というところで話を聞く人がいる。というところだ。」

それはまあ、そうだ。パーセンテージは分からないけど、そういう人はいる。確実にいる。

「そうだろう。そういう人に出会えるまで、声を出せ。知恵を絞れ。オマエの思いを出し続けろ。自分の信じることをやれ。これだと思うことを言え。信じてもらえない理由は、探さなくていい。」

信じてもらえない理由は、探さなくていい。なんだか反省しなくていい、みたいに聞こえるな。反省しない人間ではいたくないな。

「バカタレ。反省しないヤツには、どうして信じてもらえないんだ! てな上等な悩みはねえよ。そいつらが悩むとしたら、どうやって人に好かれようかとか、そういうことだ。」

いや、そういう人間とボクみたいな人間は紙一重だと思うな。ほぼ同じに見えるだろう。

「気にするなよ、自意識過剰野郎。周りは自分が思うほど、自分のことは気にしちゃいないんだぜ。」

うん。それも分かる。

「誰が言ったかを気にする人もいる、オマエと合わないヤツもいる、でも、次に会う人間はどんな内容かを大事にする人間かもしれないだろ。」

分かった。だから、信じてもらえない理由は探さなくていい、次の出会いを探せ。ということかい。

「俺が言いたいことはな。信じるかい、詩人くん。」

やめろ、この肉体絞り魔改造バスケ野郎。


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