優しさがほしいときのマヨゲン其の2
「いま、マジでキツいっす。」
自分がキツいときでも、キツいと正直に言うのは逆にキツいよね。ボクは正直、言えないんじゃないかな。マジキツいときでも言ってないと思う。うん、言ってない。自分から自分でキツいとは言えないし、言ってない。
「はい、ムダに自分に厳しくするドM野郎がここにも出現です。」
む。肉体絞り魔改造バスケ野郎のオカやん。相変わらずスリムで筋肉質な細マッチョだね。身長は同じくらいだが体重は20㎏は違いそうだ。実にうらやましい。
「他人をうらやむのはいいが、声に出すならもっと朗らかに言え!」
なんだって?
「他人をうらやむ台詞は、大きな声で朗らかに言えと言ったんだ!」
なんでだよ。そんなの恥ずかしいだろ。他人をうらやむなんて自分が足りない人みたいじゃないか。
「いや、むしろ大きな声で朗らかに言うほうが、聞こえはいいぞ。俺はオマエがうらやましい! オマエの笑顔がうらやましい。できれば俺の顔に移植したいくらいだ。頼む、うらやましいその笑顔を俺の顔に移植させてくれ。」
やめろ! すっげー恥ずかしいわ! 有り得んくらい恥ずかしいわ! 笑顔とかやめろ!
「そうかもしれんな。羨ましいと言われて恥ずかしいと思うときは、そこが自分の長所だと気づいていないときの反応だ。逆に、言われて嬉しいときは自分で長所だと思っていることを言われたときだ。」
な、なるほど。それはよく分かる。けど、ボクの笑顔とか言うのはやめろ。やめてくれ。頼む。
「いま、マジでキツいっす。という状況か?」
そうっす。いまマジでキツいっす。
「言えたな。」
え?
「いま、マジでキツいっす。と、言えただろう。」
いやそんな詐欺的な手法で?!
「どんな方法だろうと、オマエが言えないと言っていた台詞を、オマエは言えた。つまり本当は言えないことはないと。そういうことだ。」
いや、それとこれとはシチュエーションが違うだろ。
ボクは自分の笑顔を褒められるのがマジでキツいと言っただけだ。それとこれとは大違いだろ。優しくされたいけど、そのために“マジでキツいので優しくしてください”とは言えないよと、そういう話だろ!
「うっせわ! うっせえうっせ?うっせえわ!」
やめろ! 著作権は本当に面倒なんだよ。これ以上はやめろ! 本当に。
「言うんだよ。自分のために、マジでキツいんだと声にするんだ。声にする練習をしてでも、声に出してみろ。そして、言われた相手の顔を見てみろ。」
? どういうことだよ。
「正面から“いま、マジでキツい”と言われた相手に気遣いをしないヤツがいるか? いるとしたら友達じゃない。他人だ。いや、他人以下だ。他人でも、キツいと言われたら大丈夫かくらいのことは言って気遣う。他人じゃないのにそこで気遣いを示さないヤツがいたら、そいつからは離れたほうがいい。大きく距離をとれ。そいつはオマエのためにならないヤツだ。」
離れたらボクはひとりになるかもしれないだろ。
「ひとりのほうがマシかもしれんが、オマエには他にも知り合いがあるだろう。もちろん、俺もいる。ひとりじゃない。だが、気遣いしてくれないヤツの近くにいるくらいならひとりのほうがマシだ。本当は誰もひとりじゃないがな。無人島に人間がひとりしかないとか、そういうシチュエーションは除くけどな。」
オカやん……なんか感動するよ。どうしたんだ。肉体の魔改造とバスケットにしか興味がないかと思っていた。
「いや、野球にも興味があるぞ。特にバットな。ケツバットとかな。」
やめろ! そうやって暴力をちらつかせるのはやめろ! 身長は同じくらいだが、体重はボクのほうが20㎏は重い。だから、ボクのほうがパンチは強いと思うぞ。
「じゃあ、だったらなおのこと、俺はバットを持たせてもらうな。なあに、バットの重さは1㎏くらいだ。ほんの1㎏な。オマエの20㎏に比べたら20分の1じゃないか。」
いや、いま、マジでキツいっす。優しくしてください。
もういい、一旦やめさせてもらいます(オズワルドさまファンです)。
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