強くなりたいときのマヨゲン其の2
「耐えるチカラも、強さだ」
朝起きるのがイヤだ。朝が来るのがイヤだ。朝には来ないでほしいと思う。一日の終わりに横になって天井を見上げるたび、この瞬間に時間が止まってほしいと願う。自分が目覚めなければいいと思う。世界が終わってしまえばいいと呪う。
それでも、朝はやってくる。
ボクはカラダを起こす。イヤイヤながら起こすんだ。カラダを起こすだけでも重労働だというのに歯を磨いて髪を整えて服を着て朝ご飯を食べて、出かけなきゃいけない。
「すごいな」
え? そういうあなたは筋肉好き休日トレジム野郎の鈴木センパイ。
「俺はもう、ダメだと思ったら起きられないタイプだったから」
え? それは今ではマシになったよ、というふうに聞こえますけど。はっきり言って前の日いろいろあったときの鈴木センパイは翌日不在の天使になってしまいがちだと思いますが。
「うるさい。細かいことは言わないほうが身のためだよ」
いや、後輩を脅すセンパイがいるから、朝起きるのがイヤな後輩が生まれるわけですよね。もしかして鈴木センパイのせいかもしれないんですよ、ボクが朝起きるのがイヤなのは。
「それはないね。でも、キミはすごいよ」
いやまた話の流れをムリヤリ戻しにかかりましたね。
分かりましたよ。乗っかります。ボクがすごいの理由を教えてください。
「現実に耐えているからさ。“耐える”のは“支える”につながる、すごいチカラだ。だからキミはすごいし、すごいチカラを備えている」
いや、褒めても何にも出さないし。出てこないし。出すものないし。ボクには何もないし。
「だから、あるよ。すごいチカラが。耐えるチカラだ。そしてそれは、支えるチカラだ。キミはいま耐えることでチカラを貯めている。自分の将来を支えるチカラ。周囲を支えるチカラ。全身全霊で踏ん張っているかもしれないが、全身全霊で踏ん張れる人間がどのくらいいると思う。キミは全力で耐えている。いまを耐えきったら超回復をして物凄いチカラがついているだろう」
うわ。鈴木センパイ、今日は多弁ですね。実によく喋る。
「世界最大のベストセラー。一部では某有名マンガがそれだと主張する声もあるが、部数はともかくエリアの広さならば、聖書で間違いない。それに読んできた人の数でも。その聖書に書いてある。」
説明が多いだけじゃなく、知識のヒケラカシ感がすごいな。暑苦しいよ、鈴木センパイ。
「神はあなたにできない宿題を与えない」
いやしかも暑苦しい前フリだった割には誰もが知っている有名な話だね。聖書に書かれているとは知らなかったけど。
「というのは、ほんの一部で、しかも正確ではない」
どういうことでしょう?
「あなたが直面している問題のなかで、(ほかの)人間が経験したことのないものはない。神は人間に、解決できない宿題を与えないばかりか、逃げる道すら与えてくださっている。というような内容が聖書には書かれている」
つまり、何が言いたいのでしょう?
「逃げる道もあるのに、キミは耐えている。それを讃えている。耐えるチカラを、讃えている。プッ」
プッじゃねえわ。そんな大事なとこでダジャレかまして吹き出す人いるかな。
「今を耐えるチカラは、自分を誰かを支えるチカラになる。きっと耐え抜け。だが、ダメだと思ったら、逃げ出せ。逃げ出した先でやりたいことをやれ」
タスク多いな。耐えるのか逃げるのか。朝になったらまた耐えるのか、それとも逃げるのか。
「決めたいときに決めればいい。大事なことは、キミにはもう強さの素地があるということだ。ほしい形とは違う形だとしても」
うーん。どうも丸め込まれているような。
でも乗った。
「乗るんかい」
どっちやねん。
「乗っとけ」
「耐えるチカラも、強さだ」
そしてボクは今日を耐える。
逃げる手もあるなら、耐えられるだけ耐えてやる。ダメなら逃げ出すよ。
逃げ出せる場所も探しておくよ。
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